感染症は、不安や偏見と一緒にやってくる

 

コロナ禍の第三波が訪れ、各地域で一日の感染者数の記録を更新しています。政府もGoToトラベルの見直しなど、実施中の政策の軌道修正を検討しているようです。

あらためて、基本に立ち返り個人個人で行なう防御策を徹底していきましょう。先月も掲載させていただきましたが、埼玉県教育委員会の広報内容を再度引用させていただきます。

 

・家庭と学校が連携した健康管理
・マスクの着用(飛沫、マイクロエアロゾルの防止)
・3つの密の回避の徹底
・手洗い等の徹底(接触感染の回避)
・環境衛生管理の徹底


(引用:学校における感染防止対策 ~埼玉県教育局の取り組み~ )

これらを徹底していくことで、不自由のない日常が戻る日も早くなるはずです。少し苦しい時期が続きますが、力を合わせて乗り切っていきましょう!

監修の防衛医科大学校の加來教授のご紹介画像です

さて、今回のコラムでは、感染症そのものではなく、「感染症と一緒にやってくる存在」についてお伝えしていきたいと思います。

感染症で怖いのは、決して身体に作用するウイルスの脅威だけではないのです。気を付けなければいけないのは、人が人を傷つけてしまう行為。

 

誹謗中傷、差別・偏見

 

です。世界中で、そして日本でも、過去にいくつもの悲しい事例があり、感染者やそのご家族などを精神的にも追い詰めてしまうといったことがありました。

差別や偏見によって感染したことを言い出しにくい雰囲気は、罹患者本人の重症化・蔓延に繋がるのみならず、感染症の実態把握の大きな妨げになり遠ざけ、感染拡大の範囲をも急加速させる結果を招いてしまいます。

今回は、過去にあった出来事をご紹介しつつ、感染症の重大な二次被害を防止できるよう啓蒙していきたいと思います。ぜひ最後までお目通しください。

感染症を正しく理解し、正しく恐れる

感染症は、「得体の知れないもの」と決めつけてしまうことで、必要以上に怖がってしまったり、他者を傷つけてしまう可能性があります。それが、誹謗中傷、差別・偏見が生まれる原因に。このことは、どのような感染対策をも意味をなさなくしてしまいます。

日本国内でも、医療従事者をはじめとしたエッセンシャルワーカーの皆さんや、そのご家族に対する差別・偏見も少なくないようです。死と隣合わせで感染者に対応しておられる医療従事者の方々への差別、本当に残念でなりません。まさに、必要以上に恐れてしまったことによる他者攻撃の結果ではないかと思います。

 

新型コロナウイルス感染症に感染した患者の増加に伴い、医療機関においても感染患者の診察に当たる機会が増えており、感染患者を診たというだけで、医師を始めとした医療従事者やその家族がいわれなき誹謗中傷を受ける事例が各地で散見されている。

(日本医師会ニュースポータルサイト 城守常任理事コメントより)

 

日本医師会では、正しい理解を推進していくためのいくつかのメッセージ動画を公表しています。以下に2つご紹介させていただきます。

(日本医師会Webサイト「うつさない!うつらない!~新型コロナウイルス感染症~いま私たちにできること」より)

 

京都大学 iPS細胞研究所所長 山中伸弥先生

俳優 斎藤 工さん

 

正しい情報を入手することで恐れ過ぎず、結果としてむやみに人を攻撃しない。こういうことが、昨今のコロナ禍を脱出する第一歩かもしれません。

繰り返してはいけない、差別・偏見の歴史

ここからは、過去に起きた悲しい差別・偏見の実際の事例をふたつご紹介いたします。

ハンセン病

引用:岡山観光WEB瀬戸内の負の遺産を世界遺産へ。史跡をめぐりながら学ぶ長島愛生園見学ツアー

ハンセン病は、「らい菌」感染に起因する感染症。世界では、古くは紀元前6世紀のインドの古典やキリスト教の聖書、日本では8世紀に編纂された「日本書紀」にその記述があります。感染すると手足などの末梢神経が麻痺したり、皮膚にさまざまな病的な変化が起こることもあります。

1931年の日本では、ハンセン病は、「感染力が強く」「遺伝病であり」「不治の病である」という誤解が蔓延、政府は「らい予防法」を施行、ハンセン病と診断された方々は「療養所」とは名ばかりの施設に強制的に入所させられ、生涯、そこから出ることは許されませんでした(この隔離政策は1996年まで継続されます)。

その間、親や兄弟姉妹と一緒に暮らすことや、結婚しても子どもを生むことも、実名を名乗ることもできず、亡くなっても故郷の墓に埋葬されることも叶いませんでした。

また、患者の出た家を真っ白になるほど消毒をしたり、国民を指導して「無らい県運動」を進めるなどして、ハンセン病は国の恥、恐ろしい病気だという誤った意識が国民に植え付けられました。

終戦後の1947年には治療薬が開発、ハンセン病は治る病気になったわけですが、一度植えつけられた差別意識は簡単にはなくなりませんでした。日本国憲法下においても、「らい予防法」は廃止されず、強制隔離政策や「無らい県運動」を継続したため、ハンセン病患者と回復者への偏見・差別による人権侵害が助長されることになりました。

実際のハンセン病は、感染力が弱く、治療も可能です。治療薬開発後の「らい菌」は、多剤併用療法により数日で感染力を失い、他人に感染させることがないため、治療中でも治療終了後も通常の社会生活を送ることができます。

 

エイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群

「リンパ球に結合するHIV-1」Wikipediaヒト免疫不全ウイルス

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が原因の感染症。3?10年ほどの間に免疫機能が徐々に低下し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を発症します。免疫機能の低下に伴い、通常かかりにくい感染症を発症しやすくなる。日本では1985年に感染者が認知されました。

過去には、「握手や会話で感染する」「咳やくしゃみで感染する」「日用品の共用で感染する」などの誤った感染経路に関する情報の流布により、感染者への誹謗中傷、差別や偏見が横行しました。また、特定の人種や職業の方々がエイズに感染しやすい、など感染源をある集団に特定するといった情報が流布されたことで、人種差別に発展するケースもみられました。

あるアメリカ人女性は、次のように語っています。

 

「支援グループやソーシャル・ワーカーといった頼れる人が誰もいなかったので、私はでるだけ目立たないよう、世間から引きこもっていました。でも、それでもだめでした。私の身内であるにもかかわらず戸口に押しかけ、自分たちの街にエイズは不要だと言って、私を殴ろうとしたんです。エイズにかかった私は、まるで人間扱いされなくなってしまった。私が病気そのもので、感情など一切持たない存在とされ、何かを計画したり、目標を持ったり、貢献したりするチャンスをことごとく奪われてしまったのです」

(引用:公益財団法人日本学校保健会 エイズはなぜ拡大するのか)

 

実際のHIVの感染経路は、性的接触、血液感染、母子感染の3つに限られます。握手をしたり、日用品を共用したり、プールやお風呂に一緒に入ったりするといった、日常生活の接触で感染することありません。咳やくしゃみなどで感染ることはなく、日常生活の中では性的接触以外で感染することはありません。

まとめ

今回は過去の痛ましい過ちを教訓に、感染症を正しく理解し、他者に対して思いやりをもって感染症に向き合っていきましょう、という内容をお伝えしてきました。

感染症は、誰にとっても身近な問題

 

なのです。いつ感染症に罹患するのかは誰にも分かりません。「うつらない、うつさない」ということを、私共や皆さんが意識・実践し、感染症に対して過大に恐れることなく、他者への思いやりを忘れないこと、こういうことで一体感をもってコロナ禍にこれからも立ち向かっていけるのではないかと思います。

参考URL

国立国際医療研究センター COVID-19の重症化を予測する液性因子の同定

埼玉県医師会Webサイト 家庭・職場・学校などにおける感染予防対策研修動画(学校における感染防止対策 ~埼玉県教育局の取り組み~)

公益財団法人日本学校保健会 エイズはなぜ拡大するのか

delfino施設まるごと抗ウイルス・抗菌

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