「結核」「赤痢」のイメージとは
みなさんは、「結核」「赤痢」と聴いてどんなことを想像しますか?
- 「不治の病を患った主人公の代表的な病名」
- 「美人が患いそうな病気」
- 「昔は死者が出たらしいけど、今は大丈夫」
そんなイメージがあるのではないでしょうか。
実際、「結核」「赤痢」は、明治以降に国内に蔓延し、多くの死者を出した感染症です。しかし戦後、衛生環境の大きな改善などによって、患者数は激減しました。
このことから、今となっては昔の病気…と思われがちですが、じつは今でも感染する可能性が!
じつは、日本は人口10万人当たりの患者数が16.1人(2015年)と高く、「中蔓延国」に分類されています。先進国の多くは人口10万人当たりの患者数が10人以下の「低蔓延国」に分類されるなか、対策が必要とされる要注意な病気なのです。
■2018年の感染報告
2018年にも、集団感染は報告されています。
▽「結核」の感染事例
・2018年10月24日 東京大田区の総合病院で結核の集団感染が発生。計24人が感染し10人が発病。60代の患者2人が死亡。感染原は、肺結核で入院し死亡した男性。
・2018年11月12日 日本医科大学附属病院の患者11人が感染。発病者は現在なし。感染源は肺結核を発病した医師。
▽「赤痢」の感染事例
・2018年10月15日 山梨県身延町の15施設で食事をした男女98人が発病。現在、全員回復。感染源は、業者が施設に納入した惣菜。
・2018年10月23日 東京都目黒区の認可保育所の園児ら21人が感染。20人が発病し園児2人が入院。症状は軽症。感染源は不明。
このように、「結核」と「赤痢」は決して昔の病気ではないのです。現在でも感染する可能性があることを念頭において、それぞれの病気について、理解を深めていきましょう。
まずは「結核」についてご説明していきます。
■「結核」とは、どんな病気?
▽「結核」の患者数と死亡者数
『感染症発生動向調査』や『人口動態統計』によると、平成28年度の数値は以下の通りです。
- 患者数 :24,669人
- 死亡者数:1,892人
現在でも年間2000人近くの死者を出しているのです。 驚きですね…。
▽現在でも「結核」に感染するのはなぜ?
理由は主に3つあります。
①海外で感染した人が国内で発症するから
結核は、現在も世界の10大死因の一つです。WHOの発表によると、平成28年度の結核患者数は世界で1,040万人。死亡者数は170万人に達したとあります。死亡者数の95%以上は発展途上国に偏っており、下記の7ヵ国で64%を占めています。
- インド
- インドネシア
- 中国
- フィリピン
- パキスタン
- ナイジェリア
- 南アフリカ共和国
これらの国に渡航し感染した人が国内で発病し、感染拡大する恐れ可能性があります。
②第二次世界大戦前後に感染してしまった人が、加齢とともに発病するから
結核を発病する患者の70%が60歳以上。この層の多くは、第二次世界大戦前後に感染。感染した人の10~15%は1~2年のうちに発症、85~90%は、免疫により菌が休眠状態となり、一生発病しない人もいます。しかし、休眠状態になっても10~15%の人は、免疫力の低下とともに発病すると言われます。
③予防接種(BCG)の効果は10~15年。以降は抗体を持たない状態になるから
現在、乳児(生後1歳未満)にはBCGの接種が推奨されています。これにより、感染しても52~74%の確率で発症を防ぐことができます。しかし、その効果が続くのは10~15年!成人後にBCGを再接種しても効果は認められず、抗体がない状態となり感染リスクが高まります。
▽「結核」の症状は?
感染してしまった場合、下記の症状が表れます。
<主症状>
- 長引く咳
- 痰
- 微熱
<その他の症状>
- 体重減少
- 食欲減退
- 寝汗
<重症>
- 倦怠感
- 息切れ
- 血の混じった痰
- 喀血(血を吐くこと)
- 呼吸困難
▽「結核」の感染経路と予防法は?
<感染経路>
- 患者の咳やくしゃみを吸い込む「飛沫核感染」
<予防法>
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- バランスの良い食事
- 早期発見!
結核の重症化を防ぐためには早期発見が重要!2週間以上の咳や痰が続く場合は医療機関で受診し、ご自身の重症化、周囲の感染拡大を防ぎましょう!
つづいて「赤痢」についてご説明します。
■「赤痢」とは、どんな病気?
「赤痢」には、以下の2種類があります。
- 細菌が病原となる「細菌性赤痢」
- 原虫が病原となる「アメーバ性赤痢」
細菌も原虫も目に見えない微生物ですが、細胞形態や大きさ、遺伝子数など違いがあります。
ここからは、2種類の「赤痢」が登場します。
▽「赤痢」の患者数と死亡者数
『感染症発生動向調査』によると、平成28年度の患者数・死亡者数は以下の通りです。
- 「細菌性赤痢」の患者数 : 121人
- 「アメーバ性赤痢」の患者数:1,151人
死亡者数データは確認できませんでしたが、
国立感染研究所の報告によると、1999年4月~2006年12月で「アメーバ性赤痢」に感染した4,129人のうち、27人が死亡とあります。
▽なぜ、今でも「赤痢」に感染するのか
その理由は主に2つあります。
①結核と同様、発展途上国で蔓延することがあり、渡航者が感染し国内で発病するから
赤痢の患者数が多い国 は下記の通りです。年間、数十万人の患者数と推定されています。
- スーダン
- インド
- アルゼンチン
- メキシコ
- イラン
- サウジアラビア
- 中国
- バングラデシュ
- 中米諸国
これらの国に渡航し感染した人が国内で発病し、感染が広がるケースがあります。
②「アメーバ性赤痢」の患者数が増えているから
米国では男性同性愛者間での「アメーバ性赤痢」の存在が認められていましたが、一方、日本では、赤痢というと「細菌性赤痢」を指していました。しかし、国内で「アメーバ性赤痢」が1980年頃から少しずつ増加。2003年以降は「細菌性赤痢」の報告患者数を超えて、現在では約10倍の患者数となっています。
報告数が多いのは、下記のような事例です。
- 男性同性愛者の感染事例
- 発展途上国からの帰国者の感染事例
- 知的障害者施設での感染事例
また、男女比は「男性:女性=8:1」。男性が圧倒的に多いのが特徴です。
▽「赤痢」の症状は?
感染した場合、下記の症状が表れます。
「細菌性赤痢」の場合
<主症状>
- 全身の倦怠感
- 悪寒を伴う急激な発熱
- 水様性の下痢
- 腹痛
- しぶり腹(便意があるのに出ない)
- 膿粘血便
※近年、重症例はあまり報告されていません
「アメーバ性赤痢」の場合
<主症状>
- 下痢
- 粘血便(イチゴゼリー状)
- しぶり腹(便意があるのに出ない)
- 排便時の下腹部痛や不快感
<重症>
- 38~40℃の熱
- 右のわき腹の痛み
- 肝臓のはれ
- 吐き気
- 嘔吐
- 体重減少
- 寝汗
- 全身の倦怠感
▽「赤痢」の感染経路と予防法
「細菌性赤痢」の場合
<感染経路>
保菌者の糞便や、それらに汚染された手指、食品、水、ハエ、器物などを介した「経口感染」
<予防法>
- 手洗い
- うがい
- 患者の多い国で、生もの、生水、氷などを飲食しない
「アメーバ性赤痢」の場合
<感染経路>
感染した人の排泄物や性行為を介しての「経口感染」
<予防法>
- 手洗い
- うがい
- 患者数の多い国で生もの、生水、氷などを飲食しない
- 性交渉時での注意
いかがでしたか?
いずれも、死に至る可能性もある恐ろしい病気ですが、高い免疫力を保持していれば感染しても発病しにくいため、日頃からの規則正しい生活が大切です。
身体の不調を感じたときは、単なる風邪と決めつけず早めの受診を心がけましょう!